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【デジタル化する教育現場に潜むリスク】文科省は「教育データ」を扱えるのか?

第63回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■評価、入試のためのデータにならないか

 教育データの利活用を考えるにあたって、思い出さなくてはならないものがある。文科省が行っている全国学力テストである。小学6年生と中学3年生が対象だが、その目的を文科省は「子どもたちの学力状況を把握する」と説明している。つまり、これも立派な教育データである。
 では、これがどのように利活用されているのか。
 学力状況を把握することで、学力向上に役立てられている面があることも否定はしない。しかし、全国学力テストが「競争の道具」になってしまっていることも否定できない現実である。
 そして、その順位争いは次第にエスカレートしてきている。テスト対策は、もはや学校の常識となってしまっている感すらある。これは「学力状況を把握する」という目的からは逸脱しているといっていいだろう。

 ICT化によって広範囲に集めることが可能となる教育データの使われ方が、全国学力テストと同じようなことになりはしないだろうか。

 大学入試改革に関連して登場したのが、高校時代に取得した資格や部活動の実績などを電子データとして記録するシステム「JAPAN e-Portfolio(JeP、ジャパン・イー・ポートフォリオ)」である。文科省も関わり、データを大学入試に活用していく構想だった。しかし運営団体だった「教育情報管理機構」に対して、文科省が2020年8月に運営許可を取り消したため頓挫することになった。
 理由は、利用する高校生も大学も予想を大きく下回ったため、採算がとれなかったことにある。

■小学校から入試準備は始まってしまうかも

 この「Jep」に代わるものとして、有識者会議で議論が進んでいくであろう教育データが位置づけられることも考えられる。Jepは高校生だけが対象だったが、今回の教育データは小学生からデータが蓄積される。しかも、Jepでは盛り込まれなかった成績をはじめ、さまざまなデータを盛り込むことになる。
「選抜の道具」としては、Jepどころではない。利用できるところまで内容が充実してくれば大学にかぎらず高校での入試にも利用されることになり、採算の問題も簡単にクリアされてしまうだろう。

 そうなると、立派なデータづくりがエスカレートしていくに違いない。小学生時代のデータが大学入試にまで利用されるとなれば、すでに小学校から入試準備は始まってしまうからだ。
 全国学力テストが「競争の道具」になってテスト準備が常態化している以上に、日常がテスト準備になりかねない。

 大学入試だけでなく、入社試験にまで教育データの利用が拡大されることにでもなれば、それこそ教育データで人生が決められることになる。立派なデータづくりは、ますますエスカレートしていく。
 それが子どもたちの生活にどう影響することになるのか、有識者会議での議論においても、大前提にしなければならないのではないだろうか。 

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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